カラテトランスフォーマーPROFILE

「最初は子どもに武道を習わせたくて入門説明会に行ったんですけど、気が付いたら自分も習いたいと思うようになっていました」

 マンション開発のデベロッパー業を営んでいる登坂英正さん(42)は、そう言って微笑んだ。支部第一期生の登坂さんは、5年前の2010年、自宅のあるマンションに品川港南口道場がオープンすることを知ると、妻の勧めもあり長男の政守君(当時2歳)を連れて説明会に参加した。そこには、ママ友ならぬパパ友もいて、親子で空手を習うという。子どものため……だった説明会が、やがて「自分もやってみようかな」に変化していき、1週間、思案したのちに入門を決意する。学生時代は中学・高校とテニス部に所属し、大学生の時にはテニスのインストラクターのアルバイトを経験。体を動かすことが好きだったこともあり、初めて習う空手に対して抵抗はなかった。運動不足もあったため、タイミングもよかったのだろう。ほどなくして道着に袖を通した。

 初めての空手に怖さはなかったのか? 登坂さんは、苦笑しながら次のように答えた。

「じつは、フルコンタクト空手のことは何も知らなかったんです。その頃は、極真という名前も聞いたことがあるくらいでしたから……。でも、それがかえって良かったのかもしれません」

 予備知識がまったくなかった登坂さんは、真新しい道着を着て稽古に参加した。そこで直接、技を体に当てることを知り、「えらいところに来ちゃったな」と驚いたと振り返る。だが、小井師範の道場生のレベルに合わせた指導方法が合っていたのか、怖さは思ったほど感じなかったという。それよりも、少しずつレベルが上がっていくことに嬉しさを覚えるようになっていった。

「組手稽古を始めた頃は30秒くらいで息が上がっていたんですけど、少しずつですが息が持つようになっていきました」

 37歳から空手を始めて5年間、一歩ずつだが強さを実感できる回数が増えていく。昨日よりも今日の方が、少しだけうまくなる。そうした日々の積み重ねを体感する瞬間が、もしかしたら空手の醍醐味の一つなのかもしれない。長男の政守君は休会中だが、父親は茶帯を取得し、2013年に行なわれた第3回総本部交流大会(組手・シニア40’s男子40歳以上~50歳未満 軽量級チャレンジ)では優勝を経験している。

「今は、大会出場を目指す道場生が中心のアドバンスクラスにも参加していますが、稽古前は怖くてブルーになります。でも、いつまでも逃げるわけにもいきませんし、背を向けるわけにはいきませんから勇気を出して参加しています」

 試合前も怖くて仕方がなく、対戦相手のデータを調べることはしないそうだ。それでも挑戦を続けるのは、「逃げたくない」という思いがあるからなのだという。

「自分の目標はつまらない答えかもしれませんが、いつか黒帯になれたらいいなとか、いつかどこかの大きな大会で優勝できたらいいなと漠然と思っています。それが自分なりの空手との付き合い方ですね」

 踏み込み過ぎず、離れ過ぎず。空手との絶妙な距離感を保つことが、登坂さんのスタイル。それは、長く続けるための秘訣なのかもしれない。

「師範からも『無理をしないで、長く続けることが大事です』とおっしゃっていただいていますので、気持ちを切らさないようにうまく空手と付き合うようにしています。周りへの気配りが素晴らしい師範がいるからこそ、こうして続けられているんだと思います」

 空手を日常にしている登坂さんは、これからもマイペースで素敵な付き合い方をしていくことだろう。